ギフテッドの集い

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本を書いてみよう ー ヒトの物語(5)

こんにちは、やすくんです。




以前、「本を書いてみよう」と言う記事を投稿しました。
自分から見える世界を表現してみようと思います。一度に書くのはしんどいので、連載形式で挑戦します。




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ヒトの物語(5)




「無理だ」進路指導室に担任の声が静かに響く。その言葉に戸惑う。
彼の通う高校は偏差値で言うと真ん中より少し上に位置し、大半の卒業生は現役か一浪で三流私立大学に進学する。しかし彼は、この高校の学生には到底似つかわない国公立の大学を希望した。この高校から現役で国公立の大学に進学する学生はほとんどいないので、担任の言葉はこの学校のほぼ全ての学生に当てはまる。だから、彼の無謀な高望みを担任は何も考えずに切り捨てたのだろう。


昔から学校の勉強を一生懸命した事はない彼だが、成績はそれほど悪くなかった。特に、数学では中学生の頃から優秀な成績を上げていて、高校でもその成績はトップだった。ただ、興味の無い国語や英語の成績は平均以下の成績であった。定期試験の前も一切勉強しないくらい徹底していた。それが担任には無謀と映ったのであろう。「それにしても教師って言う生き物は生徒の可能性をそんなに簡単に否定するんだ」中3の時の担任にも提出した進路希望に対して「無理」と言われた事を思い出し、不愉快になる。彼はその無理と言われた高校に進学したのである。不機嫌な様子の彼に、仲の良いクラスメイトが近寄って来て、何があったのかを尋ねる。


夕方、部活を終えた彼は自転車での帰宅途中、家の近所のコンビニでアイスクリームを買い、店の駐車場の辺りで食べていた。暑い夏はやっぱり冷たいアイスに限る。そこに彼の父が偶然通り掛かる。何をやってるんだと叱る様な顔付きで彼を見る。困惑する彼。今度は一体何が問題なのだ?


彼の父は昔から彼に辛く当たる。そして、自分には甘い。例えば、食事の好き嫌いも子供には何でも食べるように命令するが、自分は嫌いなモノを食べない。「お前はダメだが、俺は許される」彼の父の考えの根底にあるのはそう言った幼稚なアイデアなんだろう。生徒に「煙草は吸うな」と言う教師が巣食う職員室の壁は煙草のヤニまみれだ。彼は教師や父親を嫌っていた。それらのモノ達が権威を振りかざす姿を嘲笑い、見下していた。


帰宅後、夕飯を食べて自室に篭る。父親の屁理屈と嫌みたっぷりな説教で疲弊した彼は、気分転換にとインターネットでニュースを閲覧する。新型ウイルスが中国で猛威を振るっているらしい。日本では今のところ感染者が出てないが、それほど遠くない未来に海を越え、パンデミックを起こすだろう。数年前、彼の伯父が上海の友人宅に滞在した際、後にSARSと命名されたウイルスに感染し、数週間も寝込んだ話を思い出した。ウイルスはヒトの流れに乗って、遥か彼方のトロントで感染が拡がった。


ウイルスは自力で増殖することが出来ず、宿主のセントラルドグマ(遺伝情報の複製、遺伝情報に基づいたタンパク質の合成の概念)にある仕組みを利用して自らを増殖させる。自分自身で完結する増殖機能を持ち合わせていないことから、不完全なモノの様にも見えるが、そもそも増殖だけが存在目的なのであれば、とてもシンプルな方法で良いなと彼は考えた。大した苦労もなく、自分の完全なコピーが作れるのだから。


「増殖だけが存在目的」しかし、ウイルスは生物ではない。つまり、ただのモノなのだ。そこに、増殖したいとか、宿主の身体に入り込みたいとか、そう言った意志があるわけではないだろう。増殖は宿主のセントラルドグマで機械的に行われているにすぎない。そこには意志などない。それはまるで意志を持たない鍵が錠を開ける様に行われるはず。彼はそう信じていた。


それでは誰がその鍵を回すのか?



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初めてなので文章はぎこちないですが、こうやって何かを考えるのってとっても楽しいです。どんどん自分の世界を表現していくのだ!