ギフテッドの集い

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本を書いてみよう ー ヒトの物語(1)

こんにちは、やすくんです。


以前、「本を書いてみよう」と言う記事を投稿しました。
自分から見える世界を表現してみようと思います。一度に書くのはしんどいので、連載形式で挑戦します。


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ヒトの物語(1)


耳を劈くような蝉の鳴き声。
この新興ベッドタウンではどこも丁寧に植林が施され、沿道は緑で溢れている。枝や幹の上でこの季節の主役である蝉達が彼らの短い夏を謳歌している。この求愛行動によって生まれた幼虫達は何年もの時間を土の中で過ごす。そして、地上に出てきたかと思うと、僅かな期間で舞台から消えていく。羽ばたく力を失い、地上に仰向けになり脚を動かすモノ。蟻達がその周りを忙しそうに駆け回る。その風景が命の終わりをヒトに教えてくれる。


通りを歩くと住民達の憩いの場である大きな公園が左手に見えてくる。やはり整備の行き届いたその場所には、笑顔で会話しながらウォーキングを楽しむ女性達や、木陰のベンチに座って仲良くピクニックする老夫婦の姿が見られる。郊外の長閑な週末の光景である。公園の中心には、ウォーキングコースに囲まれるように大きな沼がある。鯉や亀、ザリガニなどが生息し、近くの子供達が網を使ってそれらのモノ達を捕まえようと興奮している。不運にも捕まったモノが子供達のバケツの中に囚われている。そのモノを取り囲む様に立ちはだかる青いプラスチックの壁。この小さきモノはこの壁の内側をどう解釈するのであろう。先ほどまでの沼での生活の事はもうすっかり忘れ、古代のヒトが考えた様に、この新たな環境を唯一の世界と捉えるのであろうか。それとも。


子供達の手の届かない所で時折、沼の水面に泡が現れ、そして弾け、小さな同心円状の波を起こす。沼の底に知らぬ間に現れた気泡は次第に大きくなり、ある大きさに達した時、気泡はそれを沼の底に繋ぎ止めていた力を振り切り、水面に向かって上昇を始める。水面に近づくにつれ気泡は大きくなる。頭の中で、まるでそんな気泡の様に大きくなる疑問から彼は意識を遠ざけることが出来ないでいた。


周囲の同い年の少年達は漫画やゲームの話に夢中なのに、彼はそう言ったことにはあまり興味を持たない。そう言ったことが低俗だからだとか、親が厳しいからだとか、そう言う理由ではない。そう、単に興味がない。他の子供達と比べても幼く見えるその顔つきとは裏腹に、彼の内面は周囲よりも成熟している。小学校時代の終わり頃、家庭の事情をきっかけに、まるでスイッチが切り替わったかの様に精神的な成長が始まった。今では周囲のヒトの内面がとても幼く見える。子供達だけでなく、大人も含めてだ。皆、本当に大切な事には目を向けず、昨日のスポーツの結果や、最近ロードショーが始まった映画の話をしている。「そんなこと・・・」彼は呟くが、幼い外見の彼の言葉に誰も注意を払わない。


ヒトの身体のタンパク質を作るために必要な設計図である遺伝子の数は2万2千個だそうだ。驚いたことに、公園を飛びまわる蝿も同じ数の遺伝子を持っている。見た目も能力も明らかに異なるのに、コンピュータ上でこの2つの種の遺伝子を記録するとしたら、情報量は同じだと言うことである。蝿は遺伝子で定義された通りにその身体を形成し、食物連鎖の中で役割を果たす。野生の世界では、蝿は死んだ動物に卵を産み付け、その幼虫は屍を食べて、その動物が土に還るのを助ける。千年前も、1万年前も蝿はそうやって生きてきたのだろう。どの時代のどの蝿もがその遺伝子に従い、同じ役割を果たしてきたはずである。それに対してヒトはその役割が定かではない様に思える。いったいヒトの遺伝子はどうなっているのだろう。まるで目的を失った旅の様に、ヒトはただ彷徨っている様にしか彼には思えなかった。「何のためにヒトは存在するのだろう?」沼の底から水面に上がってきた気泡の様に、彼の中に広がる疑問。水面で弾けた気泡は同心円状に小さな波紋を広げる。


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初めてなので文章はぎこちないですが、こうやって何かを考えるのってとっても楽しいです。どんどん自分の世界を表現していくのだ!